外は雨。
雨粒に触れたくて、窓枠から身をのりだして手を必死に伸ばすのに。

少しも触れられないのは、それだけ雨の存在が遠いからかもしれない。





雨にふれたい  前




はいつも窓の側に椅子をおいて、1人腰かけそこに佇んでいた。


目的を持って何を見ているわけでもない。
ただそうやってそこに座り日々を過ごしていた。

それが彼女の日常。
毎日がそれの繰り返し。

彼女にとって、生きるということはなんなのかと問えば
それは食べる事でも寝ることでもない、ただ窓の側に腰かけ1人外を見る事が彼女にとっての生きる事であった。




今は梅雨。

外ではぱらぱらと音をたてて雨が降っている。


は立ち上がり、そっと窓をあけ外に手を伸ばす。
しかしその所作も、入ってきた彼女の世話役であるキイチに止められる。


「お風邪を召されます、お嬢様。」
キイチは横からの腕をそっと掴みの身体の方へとやり、開いた窓を極力音をたてずに閉めた。


「この時期、目を離すとすぐにこれです。」
キイチは、やんわりとを咎めた。

ただそれも、娘と言ってもおかしくないような年頃の主人である目の前の女性を思っての事だ。


「この季節がくるといつもお嬢様はこうだ。お嬢様のお身体になにかあっては旦那様と奥様に私は顔向けできないのですよ?」

「キイチ、ごめんなさい。あなたがそう言うのもわかるんだけど。」


キイチと呼ばれたこの男は、そう言ったの発言をまるで信じていないとでも言いたげに目を細めてを見ている。
「いいえ、お嬢様は私のお気持ちなどちっとも分かっておいでになりません。」

「どうして。」

「私がこれまで幾度こうして貴方の腕をしまい、窓を閉じたかご存知ですか。」

もういい加減、お止めになったらいかがです。と言うキイチの言葉は対してには届いていないようだ。
彼女な目線はキイチを外れ、再び窓の外へと向かった。

「だってキイチ、」

「存じております。」

もう、何度その言葉を聞いた事か。とキイチは止めても聞かない主人にある種の諦めたにも似た感情を抱いていた。





「私、雨にふれたいの。」





はぼんやりと、雨を見て誰に言う訳でもなくぽつりと呟く。
正確には彼女は雨が降っているだろう方角を向いて、そう言った。


彼女は生まれつき視力がほとんどない。
初めは気がつかなかった彼女の両親も、が成長するに従って視線がうまく定まっていない事に気づきこれはおかしいと、慌てて医者の元に駆け込んだ。
医者の見立てでは、娘はほとんど何も見えておらず光がぼんやりと映る程度だろうという事で今後治る見込みもない、という絶望的なものだった。

そんな娘に落胆するでも、悲観するでもなく彼女の両親は普通の子と変わらずに接した。
その辺にいる家族となんら変わりがない生活はただ幸せだった。
幸せがなんたるか、をはっきり頭で理解出来る歳ではまだないだろうでも
こういうのを幸せと呼ぶのだという事が心で感じれるくらい日々の生活に満足していた。

ただ、普通と違うのは家に使える者でも特に信頼出来る者の1人であるキイチを娘の世話役として当てた事である。
彼女の家は昔ながらの大名一家で、例え彼女の視力がほとんどなかったとしてもなに不自由なく暮らせるほどの財力が家にはあり、
それは両親が死んでしまった今でも変わらない。
の両親が彼女に残した遺産は莫大で、初めはそれをつけ狙う輩もいた。
だがそれらからを一切守り、ある時は親がわりとして育ててきたのがこのキイチである。



「キイチは、この家に使えて何年になる?」
は窓の外を向いたまま、そうキイチに問いかけた。

「貴方様のご両親に13年、貴方様には今年で16年目になります。」

「そう、いつもありがとう。」

「いえ。」

なぜキイチが両親に使える事になったのか、

皆が両親が死んで堕ちていく一方のこの家を次々と去って行った後も、

なぜ未だこれほどまでに以前とかわらぬ忠誠心で使えてくれるのかをは知らない。
たかが両親に頼まれたからという理由でここまでしてくれるものだろうか、
はそうふと疑問に思う事もあったがキイチ本人には問えずにいる。


人が何か1つの事を思うのは、それぞれ理由がある。
それをすべて暴く権利はたとえ長年キイチと一緒にいるでさえも持ち合わせてはいない。


それは逆もまた然りで、キイチはがなぜこれほどまでに雨にふれたがるのかを聞くすべを持ち合わせていなかった。
ただひとつ、心にあるわずかな可能性を除いては・・・・。



それは7・8年前、がまだあどけない少女の頃に父親が病で亡くなりすぐにそれの後を追うようにして母親も死んでいった。
当然は悲しみにくれたが、あからさまに嘆くことはせず静かに、
ただそれらは確実に彼女の心の中に広がっていった。


どうして両親は私を残して逝ったのか。
私はこれからどうやって生きていくのか。

視力がほとんどないといっていい自分は、働くには身体的な事からも精神面から言っても不可能だ。
そんな彼女をキイチは使用人が自分1人になってからも必死で支え俗世の害となるものから守り日々を暮らしていた。


生きる事が可能になると、今度は心にぽっかりと穴があいていることには気がついた。




自分はなんのために生きていてなんのために死んで行くのか。



ただこの閉ざされた世界にキイチと2人、
世間から隠れるようにして過ごしていると自然と自分の存在の理由を求めてしまう。



その明かされることのない疑問に心をとらえられたまま、は心をかたく閉ざしただ毎日虚ろに窓の外を見つめて過ごすようになっていた。
は言葉をほとんど発しなくなり自分の声がどんなだったかも、あまり思い出せなくなっていたが
このまま声も言葉もいっそ忘れて失ってしまえばいい、とさえ思うようになっていた。




その日もは、1人窓際に佇み何を考えるでもなく大地にただ降り注いでいるであろう雨の存在を感じている。
すると、ふとの視界に映るものがある。


「???」


動物だろうか、だがそれにしては大きい気がする。
はただじっと何かがいるであろう場所に目をむけ様子を窺った。

お互いに相手の出方を窺っていたが、先に焦れたのは向こうのほうだ。
その何かはゆっくりとの方に向かってくる。



「アンタ、どうしてオレがいるってわかったの?」


綺麗な声。
透き通る様な、それでいて何者も寄せ付けないほどの鋭さを持っている。
声の主は、黙ったままなにも言わないを変に思ったのか更に近より再び声をかけた。


「ねぇ、アンタに言ってるんだけど。もしかして耳聞こえないの?」

は、ゆっくりと視線を上げ目の前に立っている声の主の顔があるだろう場所を見つめて静かに息を吸った。


「聞こえていますよ。」


あぁ、自分の声を聞いたのはどれ程ぶりだろう。
久しぶりに声らしい声を出したので、少しかすれている気がする。


「なんだ、聞こえてたの。」
反応が無いならないで、その場を去ろうと思っていたカカシは目の前の少女が声を発したことに少しだけ興味を持った。


「しばらく言葉を発するなんてこと、しなかったものだから。」


出し方を思い出していたの、と言う少女はどこか世間一般の同じ年頃の娘たちとは違って見えた。
何事にもあらゆる可能性を秘めて、毎日楽しそうに生き生きと暮らしている年頃の少女たちとは違い、
何か諦めたような、今にも消えてしまいそうなそんな儚さを持っている。

「アンタ、変わってるね。」

「そうですか?他人とあまり関わった事がないものですから、そう考えるとそうかもしれませんね。」


・・・家のかんじからして大名のお嬢様ってとこ?


「ふーん。」

「あの・・・。」

「なに。」

「貴方はそこで・・・なにを?」

「オレ?オレはね・・・。」


からは見えないが、暗部の服を見にまとい顔には狗面をしているカカシの姿は異常なほどに血でまみれていた。
もちろんその中に彼の血液など一滴もない。


「見てわかんない?」

先ほどから少し気になるの様子を試すかのように、カカシはそう問いかけた。


「私の目、ほとんどなにもうつさないんですよ。」


やっぱり。
カカシが感じた違和感は当たっていた。
先ほどからどうにも目の焦点が合っていない気がしたわけだ。

確かにの目は顔の付近を見ているにはいるが、どこかあやふやな印象を与える。

目が見えないならそれも当然だよね。


「ふーん。でも全くって訳でもないんでしょ。」

「あ、はい。ぼんやりと・・・光があるのはわかります。」

「光ねぇ。それでオレがいるのがよくわかったね。」


見つかるとめんどーだから、気配まで消して隠れてたってのに。


「そこだけ色が違ったんです。」

「・・・なにそれ。」

「私も上手く説明出来ないんですけど、気がついたらそうでした。
 例えば・・・今貴方が立っている所だけ周りと色が違って見えるんですよ。人とか、多分小さなものは動物とかだと思いますけど。」


オレたちで言う気配がこの子には目に見えるって事か。



「便利だね。」


カカシのこの言葉にはショックを受けるでも、怒りを覚えるでもなくただ驚いた。


「どうして、」

「そう思うのかって?」

そんなの気持ちを察して先回りしたかのように、カカシは続きの言葉を言った。






「こんな世界見る価値ないと思うけど。オレ含めてね。」





カカシはこの日、火影の命により暗殺の任務を行った。
対象人数は驚くほど多く、その人数に比例してカカシの身は血で染まっていった。

そんな汚れた己の身を洗い流すように、人を殺めた後の心地が悪い高揚感を鎮めるために、
ひっそりと隠れて雨に打たれていた所を目の前の少女にあっけないほど簡単に見つかってしまったのだ。
暗部である自分が、簡単に見つかった事とそれを見つけたのがあまり歳もかわらない忍でもないただの少女だということに初めは酷く心乱れた。


少し時間をおかなければ、思わず殺してしまっていたかもしれないほどに。




カカシは基本的に何事においても興味が薄いが、梅雨時だけは好ましく感じていた。

雨は自分の全てを洗い流してくれる。
こうして雨にうたれている間はなにも考えずにすむ。


いっそ、心も流れて何も感じなければいいのに。


人の命を奪う度に、任務とはいえそれは次第にカカシの心を黒く塗り潰していった。



罪ではない。

里のため、という大義名分を常に掲げていなければ人を殺しているという事実にどんどん自分を失う感覚が広がっていく。
常に冷静でなければいけない。
死を恐れてはいけない。
そう自分に言い聞かせ、次第に意識せずともカカシは人を殺すことに何も感じなくなるほど人間味を無くしていった。



「1つ聞いてもいいですか?」

「なに。」

「雨にあたるというのはどのような感じなのでしょう?」

カカシは、答えられなかった。



キレイになる感じ。
自分を取り戻す感覚。
どれもこの少女が満足する答えではないような気がした。



「あったかくて、気持ちがいいよ。」



そんなカカシの答えには目をパチパチとさせた。

キイチは雨は冷たくて、人は濡れるのを避けたがるって言ってたのに・・・・。
この人は違うのかしら?

「私、生まれてから一度も雨に触れた事がないんです。」

「そう。」
必要ないでしょ、アンタには。

窓を隔てて、家に守られるようにして中に佇んでいる彼女と
雨にうたれてすっかり返り血も流れびしょ濡れになった自分とは別の生き物なのではないかと思うほどに、お互い住む世界が違う気がした。

「もう、行くよ。じゃあね。」

そう言ってカカシが音もなく来た道を帰ろうとすると、

「あの、」
遠慮がちには引き留めた。


「また来てくれますか?」

「さあね。」

カカシは彼女に聞こえるか聞こえないかというほど小さな声で呟き、その場を去った。



不思議な人。
名前はなんと言うのだろう。また来てくれるだろうか。



は、カカシがいたほんのわずかな時間だけ自分の生きる意味を考えずにすんだ。
その事が驚くほどの気持ちを軽くしていることに気がついたのは、
カカシが去った後雨が降っているにも関わらず、窓が開け放してあることに気づいたキイチが不思議に思って閉めてくれた時であった。




あれから数日たったが、はカカシと出会ったあの事は自分が作り上げた都合のよい夢なのではないかと思うようになっていた。


それとも、彼は雨の精霊かなにかかしら。
あれきり彼は自分の元に訪れてはくれないため、どうにも確かめようがない。

そう思っていつものように、窓の外の光をぼんやりと視界に入れていた時だ。



「また来てくれたんですね。」
少し離れた所に彼は静かに佇んでいる。



「雨にうたれてたら、アンタを思い出してね。」

その日もカカシは自分にこびりつく他人の血を洗い流そうとしばらく外で雨にあたっていると、自然とこの場所に足が向いていた。


「今日も雨はあたたかいですか?」

「まあね。」

そう答えるカカシに、は羨ましそうな表情を浮かべている。


「ねぇ、気になったんだけどさ。」

「なんでしょう。」



「アンタが見てるオレの色って何色なの。」
どす黒い色をしているのではないか、ともう1人の自分が心の中で嘲笑っていた。


「そうですねぇ、私これがなに色なのか名前がわからないんですが・・・。」

「へぇ、ざーんねん。」

「でも、あたたかい感じのほっとする色をしてますよ。」

「みんな同じような色なんでしょ。」



の答えた自分の色がカカシはにわかには信じがたい。



「いえ、人それぞれに違います。」

うそだ。
オレがあたたかいほっとする色をしているだと?
んな訳あるかよ。

嘘くさいね、というカカシの発言はの言葉で言えないままになってしまった。

「雨にうたれているからではないですか?」

「は?」

「貴方がこの前、雨はあたたかいって。そう言ってましたよね。」

確かにそう言ったけど。

「アンタやっぱり変わってるね。」

カカシがそう言うと、はくすくすと笑った。



「貴方がそう言うのならそうかもしれませんね。」



それから2人で少し話をした。
自分が暗部である事は伏せておいたが、別に閉ざされた世界で生きる彼女に名前を明かした所で大したこともないだろう、とカカシは本名を教えた。

この少し風変わりな少女は、といい最初のカカシの予想通り、大名の娘であった。
今は両親を亡くし、世話係のキイチという男とたった2人でこのバカデカイ屋敷に住んでいるという。


「カカシさん。」

「なに。」



「雨に濡れた世界も見る価値がないと思いますか?」


・・・・。


カカシは何も答えられなかった。

「すみません、無い物ねだりです。」



「オレの口から世界がどう見えるかなんて言った所でムダだよ。」



「どういう事です?」

「オレとアンタじゃきっと感じ方が違う。」


はカカシが抱える深い闇に触れた気がした。


それでも



「それでも、カカシさんは見えるじゃないですか。」



「・・・すみません、こんなこと。貴方を責めてもしょうがないのはわかってるんですけど。」

「いや、にしたらオレがムカついてしょーがないだろうね。」

「そんな、」

「今日は帰るよ。」


待って、と言う暇さえもに与えずカカシはその場を去った。


でもカカシさん、今日はって言ってた・・・。



その時、の部屋をノックする音が聞こえた。
はドアノブに手をかけゆっくりと扉を開いた。


「お嬢様?」


は両親が死んでからキイチに対して固く口を閉ざしたままである。
なに?と首を傾げるとキイチは

「誰かいらっしゃったのですか?」


は目線を外さない。


「いえ、話し声が聞こえた気がしたものですから。」

その問いにはゆっくりと首を振って否定した。

「そうですか、温かい紅茶をお持ちしましたがいかがです?」


疑うキイチをそのまま拒絶する事も出来たが、普段声を発しないせいかの喉は水分を欲している。
はそっと扉を大きく開け、キイチを部屋の中に招いた。

紅茶の一式がのる台車を押して、失礼しますと一言述べてから部屋に入ったキイチはまたしてもひとつだけ窓が開いている事に気がつき不審に思った。

そのキイチの視線に気がついたのか、は窓を閉めて努めて平静を装っていたが
そんな様子を横目に見た彼の中にはが自分に隠れて誰かに会っているかもしれない、という1つの考えが浮かんだ。


だが・・・今まで特定の人としか関わってこなかったお嬢様にはよい事かもしれない。


が自分の殻に閉じ籠もり、言葉を発しなくなった事で何もしてやれない自分をキイチは責めていた。

きっと、自分にはこの少女を見守るしか出来ない。

どうする事も出来ないことに歯がゆさを感じながら、キイチはかわらず毎日の身の回りの世話をする。





この日もカカシは、窓際に座る少女のそばにそっと立っていた。
その姿は、にまるで自分の存在に気がついて欲しいと訴えかけているかのように。


「もう、来てくださらないかと思いました。」

「来ない方がよかったなら帰るけど。」

「いえ、この前は失礼なことを言ってしまったから。」

またカカシが自分のもとに足を運んでくれたことにはほっとしているように見えた。
どんなに気配を消しても、どんなにそっけない態度をとっても、


この少女は自分を見つけてくれる。
忍ではない自分を必要としている。


たとえそれが、ひと時の話し相手であったとしても。


「別に、気にしてないし。」

「ならいいんです。」

さ、」

「はい。」



もう、オレを待つの止めたら?

カカシは自分がそう言葉を発しようといるのに気づいて慌てて口をふさいだ。

この少女はオレが今どんな姿をしているのかを知らない。
視力がほとんどないゆえに、なんにも知らずにただの人として接している。



キレイになれるかんじ。
自分が自分でいられるかんじ。



との時間は、まるで雨にふれているような錯覚をカカシに与えた。


ずっとこの時間が続けばいいのに、と思う反面
このままではいけないともう1人の自分が激しく警告を鳴らす。




もとに戻れなくなる。



それは、カカシにとっての唯一の恐怖であった。

人を殺めることになにも感じなくなってきた自分。
忍として、里の道具として心を求めないことが条件であるはずなのに

が窓際にたたずむ姿を思い出すとどうしても会いたい気持ちが抑えきれない。
あの自分の心を見ているような瞳に、己を映したくなる。


大切なものを作ることの危うさをカカシはイヤと言うほど、知っている。



オレが来るのをこの子はずっとそこで待っていたのだろうか、と思わせるほど
会ったときのはいつも以前と変わらぬままそこにいる。


「カカシさん?」

「なんでもないよ。」


胸の内をさらけ出すわけにはいかなかった。


「今日は、いつにも増して穏やかな雨ですね。」

「あぁ。」

外にいるカカシの身体を、雨が優しく包み込む。

に会えない日は、ひとり雨と彼女を重ねていた。
静かに、ひっそりと降り注ぐ雨はどこか儚げな目の前の少女を彷彿とさせる。


「カカシさん。」

「なに。」




「私をここから、連れ出してくれませんか。」




突拍子もない、とは思ったがいつかがこう言い出すのではないかと
心の片隅で感じていたカカシはさほど驚くことなく、改めてをまじまじと見た。


沈黙がなぜだと問いかけていると感じたは理由を素直に、ストレートに述べた。


「貴方が見ている世界を私も感じてみたいんです。見る価値がない、といった貴方の世界を。だから、」

そう言ってはカカシの方に手を伸ばした。


掴んでほしい。
私の手を、どうか。


カカシは、無意識にの手のひらの方へ己の腕を伸ばしていた。


自分はこの少女の存在を必要としている。
が自分を必要としているように。


2人の手が重なりそうになったその時、
身体から滴り落ちる水滴が、自分の手のひらを伝っての白い小さな手の上に落ちそうになるのを見てカカシははっと、我に返った。


あともう少し、というところでカカシはぐっと己のこぶしを白くなるまで握り締め目を固く閉じた。



オレには出来ない。



の世界を壊すようなこと。






少しづつ息をはきながら、カカシは徐々に手のひらに入る力を緩めをまっすぐに見た。


は、オレなんかがふれていい存在じゃないんだよ。」

「カカシさん、それは違います。」


は、キイチさんと2人で暮したほうがよっぽど幸せに暮せる。」

「カカシさん!!」


あとから思えば、自分があんなに声を大きくすることなんてもう二度とないんじゃないかと
あの時の事を思い返すといつもそう思った。








「もう、二度とここには来ないよ。さようなら、。」








カカシさんは、いつも静かに来て静かに去っていく。


まるで、私の存在など初めから彼の中にはなかったとでもいうように。




もうすぐ、梅雨が明ける。

カカシさんと出会った、梅雨が。








後半に続く









今回は色々初挑戦な読みきり夢です。
ワタクシのアホな発言で雰囲気を壊したくないので、
そのままの勢いで後半へどうぞ!!